(4)初級『病害虫対策』




●秋・冬の病害虫対策

 冬が近づくにつれ病害虫の活発な時期は過ぎましたが、まだうどんこ病黒星病が散見されるようでしたら相当の病原菌が潜んでいると考えましょう。クリスマスや正月に花を咲かせる場合は、花の蕾等にビニル等の袋をかぶせてから薬剤散布をします。
 またこの時期カイガラムシが目に付くようでしたら、マシン油乳剤を原液のまま歯ブラシ等につけて、ばらの幹に塗布してやります。
 さらに外気温が下がり、休眠期に入った頃を見計らって、石灰硫黄合剤の2〜10倍希釈液を12月〜2月の間に3回程度散布します。なお、「ばら作り入門」でも触れましたが、腐食性の強い薬剤なので、取扱いには十分注意しましょう。

(第44回町田ばら作り教室資料)




●初夏の病害虫対策

 梅雨明けと同時に襲ってくる猛暑によって、ダニの発生が心配されます。この時期は定期散布薬剤に殺ダニ剤を加えて、朝夕の気温が低い時に薬剤散布を行ないます。最近、無農薬・有機栽培が流行り、「木酢液」の利用がもてはやされています。実験してみましたが、万能・完全とはいえませんが、その点をわきまえた使用により、農薬散布の回数を減らすことは可能でしょう(2005年農業資材審議会農薬分科会では、農薬としての効力はないと報告されています)。ツルばらはシュート等が伸ばし放題ですので、病害虫の発生源となりやすく、薬剤散布は散布ムラの無いようとくに注意深く行なう必要があります。出来れば強力な噴霧器を用意して散布することをお勧めします。

(第49回町田ばら作り教室資料)





●最近の春の病害虫対策2011年

 うどんこ病などの菌糸類による病気対策として「菌は菌で制す」という試みが多く聞かれ、それなりに効果があるとの報告もあります。
従来あるいは今までも継続的に使用されているEBI剤による防除・治療では、使用回数や使用上の制限も多く、十分な抑制効果が得られにくくなっているのが現実といえます。そこで最近の試みとして、有機化合物を散布することによって得られる自然菌を利用した病原菌の抑制が注目されています。当会でも会員の中で次のような試みが行われています。
(1)乳酸菌飲料(ヤクルトなど)の希釈液(約500倍)を散布。
(2)砂糖水を散布。
(3)穀物酢の希釈液でうどんこ病に侵された葉をふき取る。
(4)ストチューを作り、葉面散布を行う。
なお、黒星病の抑制効果は、残念ながらほとんど期待できないようです。

 薬剤散布については、過去には数種類の薬剤をブレンドして散布する方法が一般的でしたが、耐性の問題を含め、徐々に薬剤効果が薄れるなど問題点が多いことから、最近ではシンプルな処方による薬剤散布が提唱されつつあるようです。
 例えば薬剤は殺菌剤1種類のみ散布、多少のアブラムシは目をつぶる、あるいは殺虫剤と殺菌剤を各1種類にあとは展着剤のみなどの使い方です。この方がはるかに薬剤のローテーション使用が楽になります。
 黒星病に至っては、黒星病が円形状に広がっている場合は、葉の持つ黒星病に対する耐性が働いて広がりを抑制している力が働いていると考え、その力を人間が物理的にアシストする、すなわち混み合った葉を間引き、日当たりを確保するなどの方法で病気を抑制するという考え方です。



●根頭がん腫病対策

 野津田公園のばら広場で見事な「根頭がん腫病」を発見しましたので、いろいろ調べてみました。まずは画像を見てください。「サティーナ」というスタンド仕立てのばらの「枝」にできたがん腫です。

 

 

 ●根頭ガン腫病 は、黒星病、うどん粉病、べと病、灰色かび病などの糸状菌(カビ) 、モザイク病などのウイルス性の病気と異なり、アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacteriumtumefaciens)という細菌の一種で、1〜3本の鞭毛を有する1〜3×0.4〜0.8μmの棹状細菌による病気です。地中に普通に何処でも存在していて14〜30℃で生育し、適温が22℃、何かが原因で突然発病するようです。なお死滅温度は51℃。多くの作物に病気を引き起こす多犯性の細菌です。
 ●発病の被害は、がん腫の最終形成までに時間がかかり、発生後ただちに樹木が衰弱して枯れてしまうということはありませんが、切り接いだ根元や、上記画像のような枝に醜く膨れ上がったコブを作り、美観を損ねるとともに地面からだけでなく、剪定ばさみに付着した菌が剪定傷から伝染し、広がりを見せるなどの厄介な病気です。
 ●治療および対策として、ネット上から情報を集めてみました。
(1)発病株は原則引き抜いて焼却処分する。
(2)株が小さければ土壌より引き抜いて、がん腫を、消毒したナイフ等で切除し、その切り口を消毒する。
(3)消毒方法は、
 ・バクテローズ(アグロバクテリウム・ラジオバクラー剤)の水溶液に漬ける。
(使用する水は塩素を含まない水。すなわち、水道水を直接使用せず、くみ水にして一晩以上放置した水を使う)
 ・植物活力剤「バイネキトン」を切除後の切り口に塗りつける。この後、鉢や土壌に埋め戻して、バイネキトン200倍液をジョウロで土壌にかけておく。
(4)剪定ばさみやナイフなどの小型器具はエチルアルコールで刃先を洗浄する。土を掘り起こしたシャベルやスコップなどの中大型器具は熱湯をかけて消毒する。
 などが挙げられています。



●大型の害虫対策

 ばらに付く大きめの害虫として、アオムシやヨトウムシ、蛾などは、見つけて捕殺するしかなかなか良い手が見つからないのが現状です。そこで「ばらの害虫対策」に効果があるとは一言も書いていないのですが、試してみる価値のある薬剤を紹介します。BT剤と呼ばれる蛾類の幼虫にとって天敵となる細菌を使った駆逐方法です。市場に出回っているBT剤としては下記に示した「ゼンダリー類粒水和剤」の他に「ダイポール」、「チューリサイド」、「トアローCT水和剤」などが市販されているようです。

 




●夏に葉を落とさないための対策

 残暑が厳しい8月下旬、そろそろ秋のばらの準備を始める時期ではありますが、大事な葉が黄変して落葉してしまった経験をお持ちの方も多いと思います。この時期の葉を落としてしまうと、光合成が十分に行われず、樹木の成長が阻害され秋のばらの出来栄えに影響を与えます。考えられる原因は次の4点ですが、なかでもハダニと黒点病(黒星病)は予防処置および発生した場合の治療対策が重要です。
(1)水切れを起こした可能性がある。
(2)肥料切れを起こした可能性がある(とくに鉢植え)。
(3)ハダニ発生。
(4)黒星点病発生。
 ハダニ対策は専用の殺ダニ剤が必要です。黒星点病の場合は予防のための殺菌剤と、発生してしまった場合の治療薬とに分けて適切に使用することが効果的です。
対象
薬剤名
備考
ハダニ
バロックフロアラブル
ダニ太郎
ねんちゃく君
確実に葉の裏にかけることがポイント
とくにバロックフロアラブルは効果の持続性が約1か月近く
あり、散布回数の低減に寄与する。
黒星病
ジマンダイセン
オーソサイド
ダコニール
予防処置として用いる。
黒星病
サプロール乳剤
ラリー
マネージ
治療薬として用いる。
エルゴステロール系剤なので、連続使用は避ける。
うどん粉病
トリフミン
ラリー
御酢
治療薬として用いる。
御酢はうどんこ病にかかった葉をふき取るときに使用して、
蔓延を抑制します。
(第148回町田ばら作り教室資料)



●春・夏の害虫対策

 4月に入るといよいよ本格的な病害虫との戦いになります。害虫に対しては最近の傾向として、化学農薬礼賛中心の反省により薬剤使用量をできるだけ減らし、殺虫剤 と天敵を使った生物的防除などの様々な防除法を組み合わせる総合的害虫管理IPM」(1966年にSmith and Reynoldsによって提唱された)が見直されています。
 ばらの害虫対策では、害虫の発生時期を適切に把握し、その時期にのみ効果的な薬剤を使うなどの減農薬療法で、天敵をきれいに処分しすぎることによる二次被害を予防することが主な目的となります。
 具体的には、4月下旬のゴールデンウイーク前あたりから発生する「クロケシツブチョッキリ(バラゾウムシ)」に合わせ、接触毒性を持つ薬剤を集中的に散布、梅雨時期前にピークを迎えるカイガラムシ発生に合わせて浸透移行性の殺虫剤を散布するなど、短期間に集中して薬剤散布を実施し、その他の時期は殺虫剤を使わず殺菌剤のみの散布にとどめるなど、「皆殺し」を避けた最小限の防除方法が見直されています。

(第152回町田ばら作り教室資料)



●展着剤について

 4月に入ると薬剤散布が本格的にスタートしますが、散布液を調整するときに使用している展着剤、実はなかなか奥が深いようです。「展着剤」=「葉面に対する付着性、濡れ性を高める」という従来から称されている性能ばかりでなく、いろいろ高機能に改善されてきていることが分かります。2013年4月現在販売されている展着剤の特徴をまとめてみました。
 展着剤の添加方法についても、薬剤を調合する前にあらかじめ展着剤を添加して使用するケースと、薬剤をすべて調整し終わった最後に展着剤を添加するケースがあり、注意書きや使用方法をよく確認して、最大限の効果を発揮できるよう取り扱う必要があります。
 展着剤を効果的に使用することで、薬剤の薬効期間の延長、病原菌の侵入予防補助剤としての各種効果のブーストも期待でき、薬剤の散布間隔を延長して、減農薬にも貢献できる大変大きな役目を持っているといえます。
分類
特徴
主な成分
主な商品名
一般展着剤
・濡れ性改善
英語ではspreader(スプレッダー)
といい、まさに「広げるもの」という
意味。
薬剤の付着性、湿展性に優れ、
被膜面を広げる効果が高い。高
濃度で使用すると逆効果になるこ
とがある。
非イオン系界面活性剤(ポリ
オキシエチレンノニルフェニル
エーテル、リグニンスルホン酸
カルシウムなど)約15-30%+
有機溶剤

保存期間5年
希釈倍率1万倍程度

ダイン
グラミンS
ハイテンパワー
高機能展着剤
・浸透性付与
濡れ性改善だけでなく、浸透性
もあり、病原菌・害虫の細胞など
の標的部分によく付くように開発
された展着剤。英語でadjuvant
(アジュバント)と呼ばれ、「補助
薬」の意味がある。
陽イオン系界面活性剤(ソル
ビタン脂肪酸エステル70.
0%、ポリオキシエチレン樹脂
酸エステル5.5%など)+アルコ
ール
保存期間5年
希釈倍率1000倍程度
アプローチBI
スカッシュ
ニーズ
固着性展着剤
・付着性、残効性改善
対象作物の表面へ固着させ、残
効性を高める効果がある。ハウス
内では、蒸散を抑え、湿度をさげ
発病を減らす。殺菌剤効果を高
め持続させる性能がある。
パラフィン水和剤約30%+乳
化剤
保存期間3年
希釈倍率1000倍程度

KKスティッカーは主成分「ポリ
オキシエチレン樹脂酸エステ
ル 70.0%」で有効成分濃度
が高く、付着性改善型
保存期間5年
希釈倍率2-3000倍程度
アビオンE
アビオンC
アロンA

KKスティッカー



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